字幕が先? 吹替が先? 日本語版制作の過程あれこれ
ひと昔前なら、劇場で洋画を見るなら字幕、放送で洋画や海外ドラマを見るなら吹替というのが定番でした。
しかし活字離れの影響で、今ではメジャー作品の大半は字幕・吹替の両方が劇場公開されるようになりました。
またDVDでは、吹替音声を流しながら日本語字幕を表示させて両方の翻訳を同時に楽しむこともできます。
メディアの変化と共に、日本語版制作も変化を遂げてきました。
映画本編は字幕主導、ドラマは吹替主導
映画本編は、先に字幕翻訳の作業。そのあと吹替をつくるのが定番でした。
字幕・吹替両方を担当できる翻訳者なら、1人で両方を担当することも珍しくありません。
一方、ドラマ放送は吹替で見る視聴者のほうが圧倒的に多いため、まず吹替の制作が先。
吹替の初稿台本を参照しながら字幕を制作するケースも、少なくないです。
とはいえ、映画もドラマも本国から入ってきてすぐに公開するケースが多くなってきたので、結局は吹替・字幕を同時進行で作業することが多いのが現状です。
字幕・吹替のすり合わせ
先に述べたように、DVDによって「吹替音声を流しながら日本語字幕を表示させる」ことができるようになったことで、吹替と字幕の訳が大きく異なると視聴者から苦情が来るようになりました。
(VHSの時代は、字幕と吹替を同時に見るなんてできなかったのですよ~。今の若者には想像できないでしょうね。)
そこで、ある程度吹替・字幕の日本語訳を統一する必要が出てきて必要になった作業が「すり合わせ」です。
このすり合わせ作業、特にドラマでは吹替が優先になることが多いです。
なぜかというと・・・
・リップシンクが必要な吹替に比べて、字幕のほうが修正が簡単。
・原音とニュアンスが違うが、吹替独特の演出が入っている。
などの理由からです。
ドラマ字幕は吹替初稿からつくるほうがスムーズ
上記のすり合わせ作業によって、字幕翻訳者は自分の訳を却下して吹替の台詞に統一させる機会が多くなりました。
(もちろん字幕のほうが的確な表現であれば、吹替を変更する場合もあります。)
せっかく考えた訳をすり合わせのために変更しなければいけないのは不本意ではありますが、実は私自身もドラマやアニメは断然に吹替派。
海外ドラマ・アニメは吹替ありきだと思っています。
だからこそ、ドラマ字幕は吹替初稿に合わせてつくるのが一番だと思っています。
ちなみに私は今まで、15作品以上のドラマシリーズの字幕翻訳を担当しましたが、その半分以上が吹替・字幕の同時進行。
あとから字幕のほうが修正を強いられるケースでした。
吹替初稿に合わせて訳すのも、字幕翻訳者としては若干の葛藤があります(笑)。
「自分だったらこう表現したい」というのを押しつぶして統一するわけですからね。
ただ、特にこだわりのない「どちらでもいい」表現は、最初から吹替に合わせて出したほうがすり合わせは圧倒的に楽になると思うのです。
まとめ
結局は字幕翻訳者の愚痴でした。
まとまっていなくてすみません!
現在は動画配信サービスの台頭で、吹替翻訳者のニーズが高まっています。
私も字幕の仕事が来なくなったら吹替を勉強し直そうかと思っているのですが、今まで何とか仕事を頂けているので結局現状維持(笑)。
これから映像翻訳者を目指す方や勉強中の方は、字幕・吹替両方をこなせるとデビューのチャンスがつかみやすいのではないかと思います。
過去に、「映像翻訳者になるには?」の記事も書きましたので、興味のある方はご参照ください。