フリーランス映像翻訳者の孤独LIFE

映像翻訳者になって早10年。仕事、育児、お金、孤独な引きこもり生活のいろいろ。

一人称、男女の口調に悩む字幕翻訳者

糸電話のイラスト

日本語というものは、英語と違って性差の目立つ言語です。

例えば一人称なら、英語では"I"だけでも日本語では様々。

 

 

【男】

僕、俺、私(わたし・わたくし)、自分、わし、おら、おいら、わい、われ、俺様、小生、吾輩、拙者・・・

【女】

私(わたし・わたくし)、あたし、あたい、うち、わたしゃ・・・

 

女性の一人称

いろいろ絞り出してみましたが、ぶっちゃけ字幕で使うのは女なら「私」の一択。

たまに中高生くらいまでの女子には「あたし」を使うこともありますが、字幕では稀ですね。

文字数が1から3へと大幅アップしてしまうし、

「あたし」「あたし」ってしつこく字で出てくるとイラッときませんか!?

もちろん吹替なら全然OKなのですが、字幕なら「私」でいいだろと思います。

 

男性の一人称

男なら、よく採用するのは「僕」「俺」「私」「わし」くらいでしょうかね。

日本の男性は、職場では「私」、家族や親しい友達には「俺」、それほど親しくない人には「僕」などと自然に使い分けていますよね!

これは女性目線では感心してしまいますが、字幕では一貫性があったほうがいいので、なるべくどれかに統一することが多いです。

ただ普段「俺」としていても、スピーチ・会見など公の場のシーンでは「私」とするのは許容かなと思います。

 

トランスジェンダーの一人称

すごく悩むのが、トランスジェンダーのキャラクターの一人称です。

いわゆる、女性の心を持った男性、男性の心を持った女性、のことですね。

トランスジェンダーのキャラクターが出てくる作品が最近大変多いので、毎回頭を抱えています。

 

明らかにしゃべり方が「オネエ」っぽい男性の一人称を「私」として女言葉にしていいのか?

性同一性障害の女性の一人称を「僕」「俺」として男言葉にしていいのか?

 

結局私の出した答えですが、「オネエ」っぽい男性は「僕」または「私」として、言葉は明らかな女言葉ではなく中性的な感じにしています(尾木ママとかりゅうちぇるのイメージ笑)。

心が男性の女性は、一人称「私」として、男言葉にしています(「~だぞ」「~だろ?」みたいな口調。男っぽい女性なら割と普通に使いそうな言葉)。

 

吹替ならうまく演出してくれるので、オネエキャラは「あたし」でもいいと思うのですが、字幕だとキャラによってはパッと見、違和感が生じるので、どうしても思いきれない部分があるのですよね。

 

一人称は一度決めてしまうと基本的に変更できないので、慎重にならざるを得ません。

 

男女の口調の違い

あと字幕で気になるのは、「~だわ」「~よね」とか、

私も女だけど「言わねーよ!」という女言葉(笑)。

 

これはやはり、字で追った時に女性も「~だよ」「~だな」といった男言葉に近いと、

男女の区別がつかなくなって混乱しやすいからと大御所翻訳家の先生に聞いたことがあります。

 

もちろん声で男女の区別は大体つきますが、複数話者が同時にしゃべっている時などは、男女で口調が違うほうが誰の台詞か分かりやすくなることが多いでしょう。

また、人間にとっては耳から入る情報より目から入る情報のほうが大きいというのも理由の1つと言えます。

 

まとめ

 

日本語は表現豊かな言語だと思います。

こんなふうに日本語が発達したのも、我々が表情やジェスチャーなどで表現したり、はっきり物を言ったりするのが苦手な国民性だからかなと個人的には思っています。

 

また逆に、英語にはたくさんある挨拶("What's up?"とか)や相手への呼びかけ("Hey"とか"Sir"とか)が日本語には非常に乏しいので、こういうものを訳すのも毎回苦戦しています。。。

 

引き出しの多い翻訳者になるため、日々勉強していきたいと思います。