ホラー映画は映像翻訳者泣かせ
ホラー映画は、低予算で製作できてコアなファンも多いので、インディーズ業界では人気のジャンルです。
よって私のような下々の翻訳者にも、回ってきやすいジャンルの1つと言えます。
我が家にも、私が担当したホラー映画のDVDが何本かあって、うちの子供たちがよくジャケットを見て「見たい!」と言っています。
内臓出まくり、胎児血みどろのゴアものなんか子供に見せられるわけないです(笑)!
この分野がダメな翻訳者の方はホラーの作業が苦痛で仕方ないようですが、私は結構平気なほうなので、楽しんで作業しています。(ただし夜の作業は勘弁。。。)
映像が平気でも、問題なのはホラー映画にメンタル系の表現が多く出てくることです。
例えば"crazy"、"insane"、"out of your mind"などの「狂ってる」という意味の言葉や、精神科や精神疾患に関する用語ですね。
まずホラーや連続殺人系は、crazyなキャラクターなしには成り立ちません(笑)。
そしてそのcrazyなキャラはたいてい精神科病院送りになったり、病院から出てきたりするわけです。
「キチ〇イ」は皆さんご存じのとおり今や放送禁止用語ですが、
「狂っている」「発狂した」などの表現も字幕では厳禁です。
しかも「時計が狂っている」もNGですから困りものです。
crazyの日本語訳を例に、字幕における許容範囲を示してみたいと思います。
レッドカード
・キチ〇イ
・狂っている
・発狂した
・狂気の沙汰
・気が変
・頭が変
・頭がおかしい
無難な表現
・どうかしてる
・まともじゃない
・正気じゃない
・イカれている
3段階にしたのは、イエローカードの表現はクライアントやディレクターの判断によって、OKだったりNGだったりすることがあるからです。
個人的には「狂ってる」くらい使ってもいいでしょ~、と思います。
というか、それを避けるから「正気じゃない」とかまどろっこしい表現しかできなくなってしまうのです。
まず「正気じゃない」なんて日常的に言うことは少ないですし、字幕にすると「狂ってる」より2文字も多いんです。
これは字幕翻訳者にとって痛いポイントです。
また"mental hospital"については、「精神病院」はもちろんNGですが、
「精神科」もダメなことがあります。
普通にどこにでも精神科ってあるでしょ!?
と思うんですけどね。
そのような場合は「心療内科」とするか、あえて何も出さないかですね。
これらの表現について、字幕翻訳におけるルールが確立されているわけではありません。
(『記者ハンドブック』などが参考になります。)
明らかに放送禁止用語と思われる単語以外は、まずクライアントやディレクターの判断次第ですので、翻訳者は何となく無難な表現を選択するというわけです。
翻訳者側で無難な表現にしても、「こんな言葉使っていいの!?」というくらい過激な表現に直されることもありますしね(笑)。
crazy問題はいつも悩ましいのですが、翻訳者としてはとにかく原作の雰囲気を損なわないような表現を生み出せればと常々思っています。