吹替翻訳者の質低下を憂う 「人の振り見て」初心を思い出した
以前、字幕・吹替のすり合わせに関する記事を書きましたが、ドラマの翻訳は吹替主導で行われることが多いです。
動画配信サービスが登場する前、ドラマの吹替版が作られる作品というのは地上波、BS放送、CS放送(その後パッケージとして発売)のみ。
つまり吹替翻訳者は、ある程度の数がいれば足りている状態だったので、ほとんどの作品をベテラン翻訳者さんが担当されていました。
私も今までベテラン翻訳者の吹替原稿をたくさん見てきましたが、
「さすが!」と思わせられるものばかりで、大変勉強になりました。
質低下は動画配信サービスの影響か
流れが変わってきたのは、ここ2~3年の動画配信サービスの急成長です。
それまでは、予算の少ないパッケージ作品・放送作品は字幕のみの制作だったのですが、動画配信サービスは視聴者のニーズに合わせて吹替版の制作に力を入れています。
ええ、予算は少ないままですよ!!
その結果、経験の浅い翻訳者が吹替翻訳にたくさん流入してきているようです。
(もしかすると、字幕のほうも同様の傾向があるのかもしれませんが。)
前回の担当作品が吹替原稿から字幕を作る作業だったので、初稿台本を毎回見せてもらうのですが、
「ちゃんと調べものしてるの!?」
「ストーリー分かってるの!?」
「この日本語、あり得ないでしょ!?」
という個所が多くて、ちょっとびっくり。。。
あ、でもそれは初稿の話です。
ディレクターさんが修正してくださるので、
最終的にはちゃんとしたものになりますよ(と願います)。
以前は、新人といえば字幕で下地を築いていくものでしたが、
今では新人でも経験の浅いうちから吹替の仕事をもらえる時代になったということですね。
また、その担当作品はドラマシリーズなのですが、その新人翻訳者(勝手に決めつけていますが)とベテラン翻訳者の2人で翻訳をされています。
その2人の原稿を比較すると、ホントにその差が歴然としていました。
字幕翻訳者の負担も増える
ベテランの原稿は、そのまま字幕に使える台詞も多いので非常にスムーズ。
一方、新人のほうは誤訳や不自然な訳が多いので、新たに訳を考案した上で、申し送りに「正しくはこういう意味です」などと解釈を説明する必要があるのです。
これ、普通に字幕だけの翻訳を作成するなら不要な申し送りなので、
私のほうも微妙に手間がかかります(チェッカーの仕事を兼任状態)。
「その担当作品がハズレだっただけでは?」と思いたいところですが、
さらに前に担当していたドラマシリーズでも似たような傾向がありました。
その時は、字幕吹替の同時進行だったので、私は吹替台本を見ずに作業。
すり合わせの時に、何度かディレクターから質問を受けました。
「吹替担当者が○○と言っているが、ミフミさんはどう思いますか?」と。
それが、少しとんちんかんな解釈が多くて。。。
まあ、それもたまたま新人だったのかもしれませんが、これじゃ吹替ディレクターが大変だなと思ってしまいました。
初心を思い出した
私もいろいろとポカをしてきているので、あまり他人のことは言えないんですけどね。。。
もちろん誤訳を防ぐ努力はしていますが、人間ですから自分ひとりの力でミスを100%防ぐのは不可能に近いと思っています。
だから、常々ディレクターやチェッカーに助けられています。
ふと翻訳学校に通っていた時の先生の教えを思い出しました。
一番大事なのは文章や文法を解読することではなく、ストーリー全体を読み解くこと。
監督や脚本家が何を伝えようとしているのか。
このカットが何のためにあるのか。
この台詞が何のためにあるのか。
その先生からは、このような「映像翻訳者の志」のようなものを習いました。
とにかく全体を見通せていないと、誤訳を招いてしまうものなんですよね。
私も初心を忘れずに、なるべくミスのないよう日々精進していきたいと思います。